paper-view

ksk@ぴよによるノンジャンルみだれ手記

2023/7/30の雑記 君たちはどう生きるかの感想

宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」を観ました。特設サイトとかは存在しないのでリンク等はなしです。

感想でネタバレしますのでご注意ください。

短い感想は「なんて統制された全年齢向けの常識的な映画!」というものです。

監督作品としては前二作「風立ちぬ」「崖の上のポニョ」よりもずっと広いターゲットを目指した作品のように感じています。

そのため、散見された「原液」という表現にはあまり賛同できずにいます。特に「風立ちぬ」から本作公開のあいだに庵野監督の逆襲のシャア同人誌の富野監督インタビューを読んだので「スーツをびしっと着た作品」という印象が強いです。

過去の監督作品と比較すると特徴的だと思ったのが「宇宙的な要素」と「時間的な要素」でした。

「宇宙的な要素」ですが、過去に飛来した隕石と、それに関連して作られた「下の世界」の大叔父への部屋へ向かう台形の空間で、これは監督の作品の表現としては非常に新鮮に感じました。シンプルに強く、過去のSF作品群を意識しているように思います。

「時間的な要素」は言うまでもなく、眞人とヒサコ(ヒミ)という異なる時間軸を下の世界で同時に表現したということです。ヒサコというキャラクターの要素によって作品中時系列と上映中時系列で、火を操るヒミと火事で死亡するヒサコを逆転させて出すことで、時間の要素を四次元的にしています。ヒサコは火によって死ぬが、しかしヒミは火を操る。ヒサコ=ヒミと火の因果が、人間世界の時間の進行とは別のところで表現され、しかもヒサコ=ヒミは眞人が下の世界を訪れ、そして下の世界に干渉することによって元の世界に戻るわけですから、因果がループしてしまっています。

これをヒサコ=ヒミの死が運命づけられたものとして観るか、それとも「時間」はもっと四次元的なものだと考えるか、はたまた別の時間概念で捉えるかは鑑賞者によるところだと思いますが、二時間二十分の映画で最小のエピソードで他の要素も含めて描き切るのはさすがの手腕と感じました。「メッセージ」的な物語に冒険活劇も加えちゃうわけですから。

 

そのほかの細かい要素も丁寧で、民俗への理解の深さがうかがえます。これまでの作品でも同様ですが、異世界に入るにあたってきちんと門を通っていたり、眞人が下の世界の水を口にしたところからキリコの正体に言及するようになったり、産屋と禁忌など、新作の異世界を書いているにも関わらず、既存の様々な物語を丁寧に踏んでいて、実在の世界との融和の度合いが高いです。物語の装置として様々な伝承や怪異を作ることは一般的だと思うんですが、それが既存の世界、日本の風景に溶け込んでいてミスマッチがない。

 

声の出演としてはいつものように邦画的な表現を目指したキャスティングをされたのだなという印象です。そのうえで木村拓哉さんのキャスティングがハウルに続いて印象的だなと思い「かっこいいけれど、どこか他者に規定された、内側と外側にギャップのあるかっこよさ」のようなキャラへのキャスティングで、なんとも容赦がない、と感じました。

面白かったのは菅田将暉さんのキャスティングで、変化であり醜悪な姿も持ちつつ、しかしどこかで悪になりきらない主人公に寄りそう役どころで、ほぼ仮面ライダーWのフィリップ・ライトの印象しか持っていない自分としては、現在までの菅田さんの遍歴を辿っていないことをちょっと後悔しました。

 

正直に言えば、最初はどんな尖った、振り切った作品が出てくるのだろうか、と考えて映画館に行ったのですが、実際に観てみると思った以上に完全にセルフコントロールされた作品が出てきたので驚きました。金曜ロードショーでも安心ですね。