その3:2026著作権と楽譜とゲーム音楽と その3 - paper-view
ここからは、現状を踏まえ筆者が試みるアクションと、今後の展望について書いていきます。これまでが長く現状、特に著作権法と楽譜データの不和とゲーム音楽演奏分野で起こってきた苦境について書いてきたため、ここでようやく未来を向くこととなります。
「楽譜」に特化した情報の流通を目指す
2025年末頃に友人らに相談をして、新しい企画を立ち上げました。すでにSNS等でリリースをしています「テミタイ」という企画です。
www.temitai.net
この企画で実施していることは、ゲーム(とくにインディーゲーム)に使用されている音楽について、ゲームの制作者様、あるいは楽曲の作曲者様に二次創作楽譜を作成してよいかどうかを確認し、了解を頂けたならばそのゲーム自体の紹介とともに二次創作楽譜を作成してよいことの周知、そして実際の二次創作楽譜の制作を行うというものです。
その3までで述べているように、もし「二次創作楽譜データを作成、発表しても問題ない」という許可が事前にあれば、データ化された楽譜を操作することの著作権法上のリスクがほぼなくなり、データ化された楽譜を使用することで得られる利点をフルに活かすことができるようになります。
今まで作成した個人、またはその演奏団体を超えて演奏されることがなく、同タイトルは演奏するたびに別個の人物が採譜・編曲を行っていた二次創作楽譜ですが、データ形式での共有が可能になれば、従来要していた楽譜制作の時間を大幅に減ずることができます。
上記の企画サイトでは、今後も順次、二次創作楽譜の制作が許可されたタイトルのご紹介や、実際の楽譜制作を進めていきたいと思います。
作曲者の方とお話しする
厚かましいお願いとは自覚しつつも、対面またはオンライン上で、実際に制作者様にお話をさせて頂き、楽譜を制作してもよいかということを尋ねています。その交渉過程や実際にサイトの運用を開始したことによる実感と、展望についてお話していきます。
実際の交渉はオンラインで行うこともありますが、インディーゲームイベントや音楽系のイベントに足を運び、制作者様と直接お話することを重視し、実行しています。ゲームの場合、イベントの場にいらっしゃる方=作曲者様ではない場合も多々あり、音楽素材部分は外注またはフリー素材を使用することも多く、交渉が難しいケースもあります。
しかし多くの場合、作曲者の皆様は、楽曲を第三者が演奏することについては大筋で寛容であるという印象を得ています。これは想像に難くないところだと思いますが、職務著作として制作者本人から著作権が離れているケースでなければ、やはり自身が作曲した楽曲が親しまれるのは喜ばしいことなのだと思います。お話のなかで「MIDIデータを提供しますよ」とおっしゃっていただけるケースも複数ありました。
「楽譜」の著作権が取り巻く現状が難しいものであることに興味を持ってくださった方も居ました。自身でも同様に思いますが、演奏という行為に直結する要素でありながら、楽譜というものは埋もれがちな存在であるようです。
現状の手ごたえとしては、きちんとお話をした際には、楽曲について「All rights reserved」とされている作曲者様でも、演奏や楽譜制作を快諾してくださる方が確実にいらっしゃる、という印象です。
この感覚は、おおむね2010年頃だったと思いますが、ひょんなことからゲーム業界の各メーカーの方とお話させていただいたときと似ています。同人活動については皆様、基本的に寛容な考えでいてくださっています。やはり、職務著作として著作者の手を離れ、法人の管理のもとになることが、非営利の二次利用についても複雑な状況を形作るようです。
2026年という時代の難点
上記のように、作曲者様と直接お話をし、確認させていただくことによって、楽譜データ活用の道が拓ける、という状況ではあるものの、実際にその道を進んでいく、というのは非常に難しいことだと考えています。
一つは「ゲーム音楽演奏」という活動ジャンルについての現状によるものです。2006年頃に急激に拡がりを見せたゲーム音楽演奏(再度になりますが、ここでは吹奏楽管弦楽規模のものを指します)は、2014年頃にはそのジャンル自体のフロンティア感が薄れていたと感じています。
paperview.hateblo.jp
現在、ゲーム音楽の生演奏を聴くことは全く珍しいことではなくなり、年に何回もビッグタイトル公式のシンフォニックコンサートが開かれるようになりました。現在「ゲーム音楽を演奏する」ということについて、アマチュア楽団がこの「シーン」に対して影響を与える時期は過ぎたと感じています。
概ね同じ2014年頃から、各ゲーム音楽団体の横の交流は活発さを減らし、一つ一つの楽団は従来存在した「ゲーム音楽ではない」地域に根差した吹奏楽や管弦楽の団体と似た性質に落ち着いていきます。当時、精力的に活動してきた20代の世代は現在40代前後になり、それぞれのライフステージが進行しています。
ゲーム音楽の演奏自体の火が完全に消えることはないものの、それらは「吹奏楽団だから吹奏楽を演奏する」のと同じく「ゲーム音楽楽団だからゲーム音楽を演奏する」というカジュアルな行為、新規性の薄れたものになっています。
このような中で演奏行為は集団で行われ、演奏を聴く観客もまた集団が想定されるため、演奏のために選択される楽曲もまた、多くの人が知っているタイトルが中心となります。メーカーで言えば「任天堂」「スクウェア・エニックス」から発売されたタイトルに大きく偏り、この傾向は20年以上変わっていません。
ここから敢えて「インディーゲーム」を選んで演奏するというのは、現状ではなかなか難しい話であるように感じています。インディーゲームにも、ゲームシーンとも相まって素晴らしい楽曲が多数ありますが、前提としてゲーム作品への想いが奏者、聴衆双方に必要なジャンルにおいて、インディーゲームの音楽を差し込んでいくことは大変なことだと思います。
同様に、インディーゲームというジャンルにも、過去と比較して変化が生じています。国内のインディーゲームは2015年頃、undertaleが話題になったころから盛り上がりを見せ始めたと感じています。筆者もundertaleの公式の日本語版が現れる少し前くらいに日本語化パッチによって遊び、以降steamからインディーゲームに触れたと記憶しています。
この後「インディーゲーム」は徐々に盛り上がりを見せ、コンシューマーゲーム機でも手に届くようになり、大手メーカーが制作したものにはない尖ったものが好感を得て、伸びていきますが、2026年現在では方向性が変化していると感じています。
現在もショーケースのライブ番組では新作が多数紹介され「東京ゲームダンジョン」や「Bitsummit」は活況であるものの、個人開発の規模を大きく超えたタイトルや、大手出版社がパブリッシャーとしてかかわるケースなど「インディーゲーム」の言葉の意味するところが広くなっています。
有名シリーズのいわゆる「精神的続編」と銘打たれるような作品は、いずれも大手ゲームメーカーではないところからの発売となり、インディーゲームの文脈で語られていますが、制作規模としては大手ゲームメーカーが制作するものと変わりありません。
発表されるゲームの中で、過去に話題になったアイディアに類似したものの割合が多くなり、特にローグライトが数多く制作され、新規の尖ったアイディア、斬新なプレイ体験に出会うことは難しくなっています。
また、undertaleが盛り上がった2015年は、前述のとおりゲーム音楽演奏が一つの区切りを迎えた頃でもあります。このような中で実際に「インディーゲーム」と言われる類のゲームが演奏されたという実績は、あまり多くはありません。国内では大きく「東方シリーズ」「Undertale」、次点で「OMORI」などに偏っているのではないでしょうか。
インディーゲームの市場は非常に多様ではあるものの、多様であるからこそ、集団での演奏の対象として選曲するにはその知名度で閾値を超えない状況にあります。意識的に拾い上げていくようなやりかたでなければ、演奏をしたい、というコンセンサスを作るのが難しい状態にあるのではないでしょうか。
二次創作楽譜とデータ化された楽譜は新しい景色を見せるか
ゲーム音楽演奏に関する現状を踏まえつつ、筆者としてはなお、ガイドラインによって制作される二次創作楽譜について、希望をもって行動したいと考えています。
その単純な根拠としては、ジャンルとしての「ゲーム」が好きだからという想いが根底にあります。奇しくもこれまで、ゲームと音楽とゲーム音楽演奏と切っても切れない人生を歩んできて、ライフステージが進み、生活が変化していく中、今後どのようなチャレンジができるだろうかと考えたときに思い浮かんだのが上記「テミタイ」の企画でした。
世の中に発表されるエンターテイメントは増え続け、過去の名作は色褪せず、大量の作品が世の中にあります。その中で「誰もが知っている名作」も変わらず増え続けていますが、アルゴリズムなどを利用して「私に刺さる作品」を見つけやすくなっているのもまた現代の特徴です。
大手のパブリッシャーを通し「大衆向け」に作品を送るモデルだけでなく、小規模でもアルゴリズムを通して、作品を最大限に楽しめるターゲット層に直接届けるというモデルも成立します。であればゲーム音楽演奏も、作曲者と演奏者と聴衆はより近い関係になりえるのではないでしょうか。
「誰もが知っている物語」ではないかもしれませんが「私と、誰かが好きな物語」を、その作り手と共同して奏でるのは、二次創作楽譜やインディーゲームのように、その創作者との距離を近くすることができるからこそ可能な創作だと思います。これは、従来の「ゲーム音楽を演奏する」とは少し異なる、これからのフロンティアたりえるのではないかと思います。
イベントとゲーム音楽演奏
日本にはまだMAGFestのような規模のゲームと音楽のフェスイベントはありませんが、しかし魚津ゲームデイのように、少しずつその土壌が見え始めています。
www.magfest.org
uozugameday.com
ゲーム音楽演奏ではなくとも、ゲームプレイに関してはRTAイベントや格闘ゲームイベントはユーザー主導のものが大規模化しています。
このようなユーザー主導イベントと、音楽演奏の相性は根本的には良いはずです。もし楽譜データの著作権抵触によるリスクが解決すれば、より、様々なイベントにおいてカジュアルにゲーム音楽を演奏する時代の可能性は一気に拓けるのではないでしょうか。
もしゲーム実況配信とガイドラインの関係のように、楽譜データを作り公開することが一般化することで「二次創作楽譜データは非営利、38条演奏を前提とするならば作成が可能」というガイドラインが設定される世の中が訪れたならば、過去に制作された二次創作楽譜も、そのすべてが新たな可能性を見せることになります。
ビデオゲームは物語を描き、物語を彩る音楽は心に残り、心に残る音楽は好んで奏でられるようになりました。法に反したいとは思わないものの、法だけではうまく取り扱えない二次創作楽譜というジャンルに、ガイドラインという手段によって新しい可能性をもたらすことができたら、ゲーム音楽を演奏するということだけではない豊かな文化を作ることができるのではないかと思うのです。
町のお祭りでインディーゲームの音楽が流れだしたら楽しくて仕方がないと思う
90年代、テレビからゲームの音楽が不意に流れてきたとき、ちょっと嬉しくなりました。
00年代、学園祭でゲームの音楽を演奏したとき、急に演奏会場がお客さんで埋まり、驚きました。
今はどちらも珍しいことではありませんが、もし今後、町のお祭りのステージで、知っているインディーゲームの音楽が当たり前に演奏されたら、ちょっと嬉しくなると思うのです。
そしていつか、町の祭りの一番のステージで好き放題に好きなゲームの音楽を演奏して、そのあとは屋台の飲食を悠々と楽しむようなことができたら最高です。
いつかそんな未来を観てみたいと思い、信頼できる友人に企画について相談し、「テミタイ」の企画を立ち上げました。
以上で「2026著作権と楽譜とゲーム音楽と」を完結させていただきます。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
二次創作楽譜に興味を持ってくれる方へ
「テミタイ」の活動は現在、立ち上げからのごく少数のスタッフで回しています。インディーゲームが好きな方、音楽がお好きな方、楽譜づくりや演奏をされる方でご協力いただける方がいらっしゃいましたら、可能な領域でご協力いただけますと幸いです。
・二次創作楽譜を作る
・二次創作楽譜を使って演奏する
・二次創作楽譜の制作が可能なゲームを紹介する
・二次創作楽譜の制作が可能なゲームの音楽を紹介する
このようなことに興味のあるかた、または二次創作楽譜のガイドライン設定に積極的なゲームの制作者様、作曲者様とかかわりがあるかたがいらっしゃいましたら、筆者または関係者までご連絡いただけますと幸いです。