RTA in Japan を今年の夏も大変楽しませていただきました。
コロナウィルスが猛威を振るい始め、盆や正月の移動が憚られるようになる直前くらいに注目し始めたイベントだったのですが、順調に大きくなっていてすごいなぁと感嘆するばかりです。
一方で「これはちょっと前にも見たことがある流れだな……」と思うこともあったので、今後どういう風にRTAイベントというものが変わって行くだろうかということについて、いま思っていることをメモっておこうかなと思いこのエントリーを書いています。
とはいえ自分は今のところRTAイベントは観る専門であり、走者でも解説者でもないものに対してあれこれ思うというのは完全に何様ですか案件であるということは自覚しているつもりです。
先に目次を作るのですが、このエントリーでは結論を置かないことにします。今までの自分の経験ではこの先の困難を予測するのですが、RTAイベント自体は自分がこれまで経験してきたものたちとは違う要素を多く持っています。共通しているもの、共通していないものを観察できた範囲で記述して、今後流れを見て行くための材料を置いておくにとどめることにします。
1.RTAイベント観客視点からの現在
2.自分が観てきたUGCのコミュニティの流れ
3.2を受けたうえでRTAイベントの展望と特殊性(ここが長い)
1.RTAイベント観客視点からの現在
直近のRTAイベント、日本で最大と言って差し支えないであろう「RTA in Japan」の最大同時接続者数は18万人強。イベントにマスメディア経験者が実況を入れるようになり、エンターテイメント性が大きく上がりました。
ゲーム関係メディアからの注目も高くなり、内容が電ファミニコゲーマー等で取り上げられることもしばしば。日清食品やレッドブルなどのスポンサーも付き、夏の一大イベントとしての地位を確立しています。Twitterトレンドワードが関連用語で埋まることもしばしば。
それ以外のイベントも、休日はかなりの頻度で国内外のRTAイベントが実施されているのを目にするように。同様に一般企業のスポンサードを受けるイベントも見られるようになりました。
併せて、RTAに関わる方が、RTAに対して苦言を呈する姿も見るようになりました。単純にRTAに関わる人が増えたため、自分の観測範囲でも観ることができるようになったのだと思います。
2.自分が観てきたUGCのコミュニティの流れ
よく言われることでもあり、自分が経験した流れとして、コミュニティやそのUGC自体が所与のものになるくらい根付いてくると、いろいろなネガティブなことが起こって当初の楽しみが失われていきます。参加したものやただ見てきたもの、総合していくと、参加する人が多くなったりしていくにつれて下記のようなことが起こってきます。
・回数を重ねて新奇性を失う
・作り手と受け手のバランスが崩れ、供給過多になる
・個々のアウトプットに対する要求レベルが高くなる/お客様としての扱いを求める参加者が増える
・人間関係が複雑になる/コンテンツを作るという行為よりも人間関係・コミュニティの都合が前に出る
・マネタイズできることが認知され、資本が投入された法人コンテンツが同じフィールドに出てくる
「ゲーム実況(RTAを伴わないもの)」「二次創作」「ゲーム音楽演奏」「eスポーツ(もしくは格闘ゲーム大会等)」などなどで物事が盛り上がってから落ち着くまでを観ていると、大体似たようなことが起こってきていました。
これらをひっくるめて単純に表現すると「最初楽しくやっていた人の多くにとっての楽しみの元が徐々に減っていく」ということが起こっていきます。
RTAイベントは十分に盛り上がりを見せているので、今後上記のようなイベントをどんどん経験していくフェーズに入ったと言って差し支えない、もしくは自分から見えていないだけですでに経験している、と思うのです。
3.2を受けたうえでRTAイベントの展望と特殊性
少なくとも観察している限り、規模的にはRTAイベントは今まさに峠に到達したというように感じています。
が、RTAイベントがそれと同じように推移するのか、というと必ずしもそうではないだろうという感覚もあります。アウトプットの内容が特殊なためです。
RTAというもののエンタメ部分にはいくつかの方向性があると思っています。
・レースを行うようなスポーツ的要素
・出し物を観るような発表要素→「学会」と呼ばれるような知識面の披露
・ゲームそのものの紹介としての側面
このうち特に「学会」と呼ばれるような知識面、ゲームの仕様を掘り下げ紹介するような内容を含むRTAは、たぶん今後もそのコストパフォーマンスの悪さからマネタイズ関係の影響はあまりないものではないかと思います。「レトロやマイナーゲームでも行われる」「掘り下げに時間や専門知識を要する」「リアルタイムで披露する」の三つも関わるのは、芸として特殊すぎます。
併せての特殊性として「各タイトルの走者が少ない」ということが、各コミュニティが大きくなり過ぎない要素となっているのだろうと思います。それぞれが常にほぼオンリーワンのコンテンツであり続けられます。(RTAイベントではよく走者さんの「ぜひこのゲームを走ってください」という言葉が聴かれるのですが、参入障壁が下がり人口が増えるほど、今走者として活動している人の楽しみは減りやすくなるのでは、と感じてもいます)
各ゲームタイトルが出し物として独立し、実施する人たちもお互いにリソースやコミュニティを食い合うようなことがないと考えると、似ている既存のコンテンツとしては「欽ちゃんの仮装大賞」が近いのではないでしょうか。長年、テレビメディアで放送されながらユーザーレベルの出し物のみのコンテンツです。
一方で今回のRIJの「リングフィットアドベンチャー」のように、同じ土俵の中に、プロフェッショナルな演出技術が入ってくるようになると、イベント全体の要求レベルが上がってしまう恐れも十分にあるのでは、と感じています。
要求レベルが上がっていくと、同時にイベントを運営するコストも大きくなり、UGCのように本人の楽しみのみを対価として実施する「楽しさ」が相対的に目減りしてしまいます。個人で面倒が見れる範囲も超えていくので、組織づくりだけではカバーできない部分も増えていくはず。(ドライブされている運営の皆様には本当に感謝しています)
今まさに最も注目されているRTA、運営が「チャリティー」であるということもあって自分もとても注目しているのですが、大きくなるスピードの速さにちょっと不安も覚えたので、ここでメモしておくことにしました。