「シアター!」(劇場/舞台/演劇)というのがこの小説のタイトルです。
「アクター!」(役者)でも「プレーヤー!」(演者)でも「プレイ!」(公演)でもない。「シアター!」なのです。
赤字劇団「シアターフラッグ」は、とある事件により大きな赤字を抱え、存亡の危機に立たされる。代表者で脚本担当の巧は兄、司に金を貸してほしいと頼む。司の出した条件は、貸した300万円を劇団の収益のみで返済すること。期間は二年。できなければ劇団は解散。巧とシアターフラッグはその条件を呑まされる。一方で司は、劇団の事務運営に切りこみ、徹底的な合理化を行っていく。シアターフラッグは赤字を返せるのか――!
ってなあらすじです。
舞台には悪魔的な魅力がある。自分もそういう悪魔的魅力に取りつかれ、今を生きているわけでございます。
楽屋に入った時の昂揚感、リハーサル時の誰も居ない客席の期待感、本番が始まった時の緊張感、もう一度誰も居ない客席を眺める安堵感、唯一無二のものです。
その「シアター」(舞台)の魔力に、とりつかれた者と、それに巻き込まれる者と、もっと広く言えば「シアター」(演劇)というものを囲む小社会の現象そのもの。
を、描いている小説だと、僕はとりました。
が、そこは有川先生、素晴らしくキャラの立った登場人物たちと、その絶妙な人間関係描写、そして何より可愛すぎる書かれ方の兄弟が設定の中で活きる活きる。
第一章で提示されるわかりやすすぎる課題設定、それに至るまでの「現状」=劇団の今と「可能性」=劇団の持つ力、が恐ろしいテンポの良さで、おおよそ文庫全体の1/6分のページですが、こんなに誘引力のある導入に出会えることはそうそうなかった。
それでいて「舞台」が持つ悲喜こもごもは、自分自身が8年だかの前に、GAMEバンドを一般団体化する際に通った悩みでもあって、いろいろなことが思い出されて、なんどか途中で思わず文庫を閉じて過去を思い出してしまいました。
僕はこの「中心課題=劇団の存亡」とその「解決」を中心のドラマで楽しんでいるんですが、一方でおそらくこういうことにあまり興味がない人もいて、そういう人たちは人間関係、色恋沙汰、そういう描写の方を中心のドラマとして楽しむ一方、大きく設置された中心課題=劇団の存亡、をサブとして見てる人も居ると思うのです。
そのどちらをメインにしても美味しくいただけるハイブリッド。すごい。
二巻も現在ものすごい勢いで読んでいる最中です。
- 作者: 有川浩,大矢正和
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2009/12/16
- メディア: 文庫
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読んでいたら、いろいろと思い出してきてしまったので、思い出語りはまた、次のエントリにて。