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ksk@ぴよによるノンジャンルみだれ手記

【ネタバレ】「アイの歌声を聴かせて」感想

アニメ映画「アイの歌声を聴かせて」を観ました。二度。

 

ainouta.jp

 

何度かほか映画の上映で予告編を見ることがあって、その時はそこまで刺さらなかったのですが、実際に観たときの衝撃が今年公開映画の中ではトップでした。

今年は本当にアニメ映画が豊作だと思うのですが「レヴュースタァライト」「映画大好きポンポさん」や「サイダーのように言葉が湧き上がる」と、また観たいと思える良作がたくさん上映された中で「アイの歌声を聴かせて」は自分にとってさらにそれを上回る衝撃でした。

 

ということで、以下ネタバレありの感想です。

 

 

公開からある程度時間が経って、SNSでもいくつか熱い感想を目にして、うんうんと頷くことが多かったのですが、二度目を観終わってふっと思ったことは、この映画はシオンを取り巻く事情や音楽や、世界観の設定が練られていることは当然として、とにもかくにも「シオンが超ポジティブである」ということが超重要なのだろうということでした。

 

人工知能」がキャラクターとして登場するとき、どんな感情が載せられるかについて考えると、シオンのように「とにかく突き抜けてポジティブである」というパターンはひょっとしてあまり多くないのではないかと思います。

ちょうど「AI探偵(早坂吝さん著のミステリシリーズ)」を読んでいたのですが、この中に登場するAIには喜怒哀楽がある。ドラえもんも喜怒哀楽がある。タチコマも怒はあまり見せないが哀のようなものは見せたはず。イズは、ニーアオートマタのアンドロイド達は、と考えていくと、シオンのように徹底して「喜と楽だけ」という表現は、思ったより多くないんじゃないか、と思ったんです。

たとえば、人工知能が、そのハードを破壊されるなどして機能停止に瀕するとき、人間のように涙するような描写があったり、痛みのような描写があったりしますが、シオンはそれも希薄です。シオンは一度も泣きませんし、バッテリーが減ったときも動きは鈍くなれど表情は笑顔を保っています。

 

これは、設定上、シオンがその世界で運用されている「AI」よりとてもシンプルなつくりの「サトミを幸せにする命令を与えられたAI」(トウマが作ったAI)からスタートして「ムーンプリンセス」だけを学習教材とし、シオンのボディに搭載されるはずだったAIを乗っ取った(もしくは相乗りした)ことによって起こった、AIのとくに知能面としてはダウングレードと言っていいものと思うのですが、それが結果としてシオンに「とびきり明るい」というキャラクターを与えて、そのキャラクターが学校の人間関係をひっかきまわして、結果すべてを解決して前に前に、ポジティブに進めてしまう、というのは、とても面白い展開です。

 

シオンがAIであるとか、サトミを幸せにするという目的を与えられているという前提、積み重なった設定や伏線がしっかり回収される楽しさはあるわけですが、そも「超ポジティブなキャラクターが物語世界を回す」というのはこれだけ気持ちのいいものなのだ、というのが、この映画のエンタメの中心であるように感じたのでした。

 

 

ほか、細かにシーンごと感想を綴っていきます。

 

二度見たことで冒頭のネットワークを移動する描写は最高に楽しいシーンになりました。初見のときからBGM「シオンの世界」はなんて楽しい曲なのだ、と感じていましたが、初見後にサントラを買ったときからは最後のフレーズでのシオンの歌声が染み入り、二度目の視聴ではネットワークを移動してボディを探すシオンが歌える身体を見つけたところまでの映像が全部ぐっと来ます。この映画、上映前の他映画予告編が短かったうえにこの導入なので、ど頭からガッツンと殴られるようなスタートで好きです。

 

美津子が設定していたパスワードがサトミの名前と誕生日なのは終盤のビル侵入シーンのアヤの父親とひそかに対応していて二周目で楽しい箇所でしたね。

 

シオンの笑顔は基本的に口角をあげまくる笑顔なのですが、後半に角が取れてきたアヤが似た笑顔をするようになっていくのが可愛いです。またアヤが「ずっと見てきた」ということをゴッちゃんに対して吐露するとき、シオンの表情がちょっと変化するのもとても良かったです。シオンはそれこそ8年間ずっと見てきたんですもんね。

 

トウマが三太夫の停止に巻き込まれたシオンからハードウェア腹パン喰らってるシーンが大好きです。その前後も含めてコミカルだから楽しいんですけど。本人にしたらたまったもんじゃないのでしょうけど。あと最後のシーンでワイシャツちゃんとしてないのもかわいい。

 

Lead Your Partner(柔道ミュージカルのシーン)は冒頭から大好きで、頭のホーンセクションがバーっとロングトーンする瞬間にトウマが構えているスマホの画面に表示されたイコライザの波形が暴れるのを見て脳汁が溢れてしまいます。その後は指パッチンが入っていきますが、劇場ではちょっとやりがたいので悔しい。家で聴いてるときはやります。この一連の柔道×ダンス×ミュージカルは入りもそのあとの続きも完璧で、発明だと感じました。何度でも観たいです。これを劇場の音響で聴きたくて二度目を観ました。

 

ソーラーパネルの前でみんなが歌うのは、音はずしまくってるのも含めてとてもいいシーンだと思うんですけど、このバージョンの音源はサントラになくて、ちょっとさみしい。

 

津田健次郎さん演じる支社長の西城は、二度目に観ると声と顔が悪人なだけで常識的なことしか言ってないということに気づきました。彼の立場からしたらシオンの中に侵入したAIはバグだし、予期せぬシンギュラリティはリスクですもんね。一方普通の大人っぽい野見山さん、シオンの萌芽が技術的にはすごいもののはずですけど無慈悲に消しちゃうの、結構やべー性格ではないでしょうか。美津子に出世を抜かれたのはそういうところなのだろうか、などと感じました。

 

二度目の視聴で一番最後にタイトル画面がバンと出たとき、BGMが盛り上がって言ってなかったら感極まって変な声漏れてたの他のお客さんにバレてたかもわかんないですね。あぶないところだった。

 

 

以上、今のところ今年で最も推したい映画になりました。単発の映画はどうしてもその先にキャラクターたちが続いていかないのでその単発で語るしかないですが、TVなどでも放送されてくれたら嬉しいですね。