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ksk@ぴよによるノンジャンルみだれ手記

【ネタバレ】映画「100日間生きたワニ」感想

「100日間生きたワニ」を観てきました。

100wani-movie.com

 

以下、ネタバレありで感想を述べていきます。

 

 

カメラを止めるな!」「スペシャルアクターズ」の上田慎一郎監督ということで興味が沸き観に行きました。つまりこの記事は監督を推している人間が書いています。

 

作品自体はTwitterで途中から、終了日とその後のプロモーションの流れまで見ていました。漫画としては起承転結がはっきりしたものではなく、終わりに何が起こるか宣言されたうえで進行するものだったので、SNS時代ならではの、作り手と受け手の関係性が重要、逆に言えばそれ以外には物語的な要素があまりない作品だと感じていました。

 

連載終了後からの各種展開は、作品に対しての思い入れが強くならなかったこともあり覚めて見ていました。だからこそ、この作品を上田監督が作ると聞いて強い興味が沸きました。

 

映画の感想に移ります。観て良かったと思いました。この後述べていきますが、非常に丁寧に画作りがされていることがとてもよく伝わる作品でした。他の名作映画と比較した場合にこの映画の画作りの手法が優れているか、というと決してそうではないのだろうと思いますが、元の漫画をそのまま丁寧に動画に落とし込んだとき、材料の情報量が少ないことが幸いして、非常に細やかな気配りに気づくことができたということです。

 

まず、間(ま)の取り方が超丁寧でした。原作も文字や画の情報量は多くなく、キャラクター同士のかけあいのあいだにある関係性、その間が特徴的でしたが、動画にした際に、会話シーンでもSNSシーンでのやりとりでも、あと0.1秒短くても長くても印象が正解から遠ざかる絶妙なポイントを突いています。

 

映像についても絶妙、という印象を持ちました。全体は原作に寄せた絵柄のものなので、一枚一枚の絵の美麗さは必要ではない。しかしその場面に必要な何らかの感情を起こすためのものがきっちりと用意されていました。しっぽを振るワニ、雨の暗さ、ワニ死後のネズミの家の描写の絶妙な埃っぽさ。

60分の動画なので狙ってやったものと信じているのですが、冒頭および中盤の花見のシーンと2度繰り返される、センパイが飲み物をこぼすシーンのコマの跳び方が印象に残っています。これは原作にない描写でした。その前後のやや長い間とネズミの動き、穏やかなBGMのハーモニーの中にわずかに挟まれる不安な音が相まって、特に印象に残る演出でした。感情を誘導するお手本を見せられているかのよう。

 

新しく登場したキャラクターのカエルについても、声の演技もさることながら、この動画において後ろ姿ではワニと見た目がダブるというのは装置としてなるほどと思わされました。

 

ということで、そんなに映像技法について詳しくない自分としても、これはかなり丁寧に作られているぞ、という確信をもって見ることができました。

 

 

物語面ではどうだったか。

自分は、漫画本編の連載終了から時が経って、連載終了後の展開もあってこんなに「100ワニ」から心が遠ざかっていたのに、再度きっちりワニと別れさせてくれたなと感じました。

そもそも、この映画は漫画版を読んだ人向けに作られているはずです。ワニが死んだのだということを原作漫画よりもさらにわかりにくくしているので、原作漫画を知らない人は最悪、ワニがいつ死んだのかをしっかり感じることができない可能性があると思われます。

もちろん映像演出としてはこれでもかと示してくれているのですが、明言されないとわからない人も多いと思うし、小さなお子さんなどには理解は難しいと思います。

 

そして読んだ人向けに作られたのでなければタイトルはこのように改変されないのではないでしょうか。100日より前にも物語世界で当然ワニは生きていたのであり、であればだれにとっての100日間なのかと言えば、それは映画初見時点ですでに原作を読了している人の100日間のSNS体験だと思うわけです。

100日後に死んだワニは、その後の作品の宣伝、商業展開で別れもわやくちゃになったけれども、しかしそれが展開した「100日間」をもう一度、フラットにしてもらえた。そういう感覚がありました。

 

生死が絡む物語は、死者の周りの人が「死を受容する」のを一つのドラマとして成立させます。「若おかみは小学生」とか「きみと、波に乗れたら」もそう。

「100日間生きたワニ」も同じ、ワニの周りの人物たち、とくにネズミ視点での死の受容をドラマとしていますが、今回、一番死の受容に失敗したのは(それは決して受け手の責任ではないと思うけど)この原作をSNSで読んで、その後のわやくちゃを目にした人たちだと思うのです。それをもう一度こうして軟着陸させてくれたというのは、監督と脚本、そして作った人たちの人柄だと思うんです。

 

ということで、良いものを観た、と思えました。

 

が、一方で、SNSでも再びわやくちゃしてるように、これは伝わりがたいだろうなと思いました。

映画は本来自由な尺、自由な内容ものとはいえ、映画館でやる映画はハリウッド的三幕構成で二時間、情報量たっぷりのこってり味付けが主流。邦画アニメでも同様。

その中で精進料理のような映画を出しても、その精進料理がいくら丁寧に作られていても、映画館が人々にとって洋風料理店だと認識されていれば残念ながらコレジャナイと思われてしまう。

「こういう映画もあっていいと思う」と「映画館ではこういう体験が期待されている」は平行線で、どちらも正しい。そして、後者はこの作品とはおそらく確実に合わない。

おりしも「ファスト映画」が話題になった時期に、なんとも印象的な鑑賞となりました。

自分は美味しくいただけました。よい映画体験でした。

次の監督の作品も楽しみにしています。