paper-view

ksk@ぴよによるノンジャンルみだれ手記

【ネタバレ】映画「パラサイト 半地下の家族」感想

「パラサイト 半地下の家族」を観ました。

 

www.parasite-mv.jp

 

以下、ネタバレを含みますので未見の方はご注意下さい。

 

 

自分が観に行く頃には評判が広まっていたので、自然とコメディではない、どちらかというとホラー寄りだ、という事は知った状態でした。

 

観終った後に、ずーんと頭の中に重いものが残ってしまいました。

というのは「この映画が成立していることそれ自体」について考えてしまったからです。

この映画は、階級闘争をする気配が微塵もありませんでした。そういう映画が映画祭で大きな賞を与えられるということについて、自分は映画通でも映画祭通でもないけれど、とはいえ定例の映画祭ですから現代モノであれば「今」を描いていると考えられる。そう言う映画で階級闘争を全く描かない。

 

途中でふっと思ったのは(それは日本語訳の字幕の問題もあるのかもしれないし、ニュアンスの問題もあるのかもしれませんが)登場人物の半地下の家族たちは、徹底して寄生先の富豪家族に対して敬称を使っていました。それは寄生している先での仕事の場面だけでなく、半地下の自宅にいる、富豪の耳目の届かないところででも、です。

半地下の家族たちは一貫して、富豪が持っている富や地位について反発的な感情は持たないし、いわゆるホワイトカラー対ブルーカラーのような「おれたち」「あいつら」という構造でもない。

それはコメディから様相を変えてきた「地下の男の夫婦」が現れても続きました。ここから先、争いは「半地下の家族」対「地下の男の夫婦」という同じ階層の中での寄生対決であり、たとえば富豪家族に対して共同で戦線を張るとか、そういったことは一切起こらない。

 

「いや、でも最後は半地下の家族の父がキレたじゃん」となると思うんですよね。そうなんです。けれども、彼は何で我を忘れたのか。最終的には「臭い」がトリガーだったわけですが、彼自身はそれこそ、至近距離で富豪が臭いについて語っていても(そりゃ極限状態だけども)自我を保って、更にそのあとも集団避難先で「諦め」だった。

 

世代で考えました。

半地下の父は、階級闘争を封印した世代。

半地下の息子は、階級闘争を封印した世代に育てられた、階級闘争をしない世代。

 

封印していた怒りが、それは個人に由来するものか、階級に由来するものか、でもそれをすぐにまた封印し父は逃走、最後に半地下の息子は、逃走し地下生活を続ける父に、いつか家を買って地下生活からの解放をと手紙を作りますが、それが成就した映像をみせておいて、そのあとにそれは不可能であるという現実を叩きつけて終わる。

 

韓国という国の経済状況に詳しいわけでもないけれど、これはなかなかショッキングです。文脈はコメディからホラーに変わるわけで、ということはある程度リアリティが無くてはいけない。ということは、おそらくこの観念はいま「自然」なのではないかと。

 

そこまで考えていたら、昨年に観た洋画も、階級闘争を妄想はすれど、実際には何らの犯行もせず終わっていたことを思い出しました。

勿論階級闘争を「すればいい」ということではないけれども、上昇志向が全く持てない、ということだとしたら、それが世界的に起こっているとしたら……と考えてしまい、うすら寒い気分になってしまったのでした。

 

映画としてはハラハラ感、演出、ともにとても面白いものでした。

 

また、鑑賞後、自宅が借家や中古住宅だった方は、なんとなく壁の向こうを気にしてしまったのではないでしょうか。(笑)普段過ごしている日常に何らかの恐怖を少しでも抱かせれば、ホラーとしては大成功だと思います。