現代ものの小説。表紙の二人が主人公で、片方が腕の高いプログラマー、もう片方がレトロゲームにこだわりがあるディレクター。大手企業と因縁を持つ二人が、あるゲームの移植をきっかけに……というあらすじ。
それぞれのキャラクターがそれぞれにピーキーで小気味いい。悪い奴は悪く、いい奴はいい。登場してくるゲームは架空の物と実在のものが入り混じっていて、ファミコンの時代を生きた人には懐かしい名前がたくさん。
と、これだけの要素だとなんだか人間ドラマがあるのか、という疑念があるけれども、実際には人情モノ。ほろっとするような展開も。
レトロゲームは定期的にブームが来て、だいたい十年周期くらいで回っている気がする。十五年前くらいにはトンガリキッズとかが出て、コンビニで8cmCDのついた食玩が発売されてた頃。チップチューンという言葉が出たのもこの頃の気がする。
で、最近ではミニファミコンに始まる懐かしアイテムなど。
レトロゲーム自体はレトロ、というけれども、ゲームとしてはむしろハイエンドゲームが重たくなりすぎている今、ドットだったりチップチューンみたいなものは一つの様式として再度出てきていて、steamにもドットの90年代のようなゲームは多いので、レトロ、というよりもそういう様式美なのだと思って観ていた方がいいと思う。そう言う流れの中にこの本もあるのかもしれない。
ジャンルとして確立されているその一方で、こういうものもそうじゃなくても、ゲームは安く叩かれているというイメージを個人的には強く持っているので、この小説を読んでいると、主人公たちは果たして今後どのくらい食えるんだろう、というところはちょっと心配になったりする。
本書の中では開発者がゲームに込める思いがあるんだけれど、一方で子どもがどういう風に遊ぶか、というのについては、結論は人間ドラマに負けてしまっていた感じがして、読んで暫くしてから冷静になったらここはもう少し掘り下げてもらえたらよかったな……などと贅沢なことを考えてしまった。人間ドラマの方がテンポも含めて素晴らしいので、そんなに気にならないんだけど、子どもたちはもっともっと自由に遊んでしまいそうだな、と思ったのだった。
キャラクター的には拡がりがあると思うので、2が出て欲しいなー、という気持ち。