読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

paper-view

ksk@ぴよによるノンジャンルみだれ手記

(ネタバレあり)映画「心が叫びたがってるんだ」の話

映画「心が叫びたがってるんだ」を観てきました。これからネタバレのあるお話していきますので、まだ観ていない方はご注意ください。

 

まず先に言っておきますけど、僕はこの映画のことは好きです。ただ、これを薦めるか。というと薦めないと思います。理由は後述していきますけど、やりたいことをあまりにもやりきれていないと思ってしまったからです。

 

観終った直後に一緒に行った方とお話していたのは「これをやり切るには1クールは必要だった」ということでした。そのくらい、情報量と、こういうことができただろうけど時間が足りなかったよな、ということがすごくはっきりみてとれてしまう。

 

基本的に「青春群像劇」だと思うのです。この群像劇の主人公は男女四人。みんながみんな、それぞれに叫びたいことがある。心が叫びたがっている。叫べないやつ、叫ばないやつ、いろいろですけれど、ではその色々は描き切れたか、というと映像的には未消化だったものがあまりにも多すぎた。

成瀬順はだいぶ描いてもらえました。そりゃそうだろうとは思います。彼女のことはけっこうわかった。

坂上拓実はどうか。もっと中学生時代のことを知りたかった。両親との間のことを知りたかった。彼が仁藤のことをどう思っていたのかを掴みたかった。

仁藤菜月はチアリーダーとしてどうだったのか。それまでの田崎との関係は。そして坂上との関係は。

田崎大樹は野球部にいたときに何が起こってしまったのか。野球部の各部員との関係は。

 

そういう色々なことを丁寧に確認していきたかった。そのうえで彼らが悩んで叫んで、最後にミュージカルという大きな舞台があればよかったのだと思うのです。そして仮に説明がなかったとしても、ミュージカルの舞台をしっかりと観れれば、僕は満足できたと思うのです。

けど、それはどちらもできなかった。ミュージカルは全体を観ることができなかった。最後の彼らはいい顔で舞台を終えていたけれど、僕はそれをみる観客の立場にも、クラスメートの立場にも立つことができなかった。前者をするにはミュージカルが描かれた時間は短すぎたし、後者を達成するにはクラスメートのことを知らなさすぎる。

 

そういう、観ている人の立ち位置、というところ以外の、キャラクターの描き方はどれも好きなんです。教室という力場の不安定さ、その力場の中で起こってしまう不和と、それを誠実さで乗り越えようとしたときの言葉。成瀬順の「呪い」の不完全さからくる思春期の女子っぽさ。突出したヒーローヒロインでなくて、たくさんのモブキャラが、それぞれの主人公たちに「叫ばせない」社会的機能をちゃんと持っていて、そこが面白いなと思うわけです。ゴリ押しできる青春ドラマじゃない感じが。

 

もうちょい具体的にどうしてほしかったか述べましょう。

まず何においても、ミュージカルをきちんと見たかった。特に入場者に劇中劇のパンフを渡すというメタな特典があるならば、もっとミュージカルの観客になりたかったのです。ただ話のうえで、ミュージカルだけを映すわけにはいかない。ならば成瀬が間に合うかどうかというハラハラが欲しかったわけで、それが無かったのは残念だった。結果として、成瀬の告白のシーンも一段下がってしまった。

ミュージカルはもっと描いてほしかった。というのは、準備だったり、舞台のことだったり、そういうこととか、当日の舞台のことはもう少し見たかった。これは最近「アニデレ」を観ていたのでハードルが挙がっていたというのもありますし、僕は舞台表現が好きなのでここの評価がシビアだというのもあります。(笑)でも、作中の担任の先生の「ミュージカルは奇跡が起きる」というセリフがものすごく好きだったので、それを活かしきるならもっとミュージカルに力を割いてほしかった。

恋心をもっと描いてほしかった。いや、嫌だったのかもしれない。作品の中心テーマではないから。けど、成瀬がフラれてしまったときに、成瀬、もしくは坂上の心の中を知っていたかったわけで、成瀬のすごく弱いけど一生懸命な叫びを全身に浴びて「ああ~っ! もう殺してくれ!!」って言いながら帰りたかった。

野球部の確執をもっと観たかった。結局「片付けを手伝うよ」が雪解けになってしまっているけど、そこまでにはもっといろいろあったはずで、田崎というキャラがなんともいえない立ち位置にとどまってしまったのがもったいない。彼の恋心には説明がなく行動だけがつきまとうので一番共感がしにくくて、それをもっと理解しておきたかった。

 

と、いった感じです。あとは映像的なところですけれども、心が動くとき、っていうのはもっと映像的に時間や演出を割いてよかったのではないかな、と思っていました。ただそれはテイストの問題かも。ベタな処理になってしまって、ファンタジックさが増してしまうようであればたぶんそぐわない。

 

んで。その後、同行者から漫画版を借りたら、各キャラのエピソードがもっと描かれていて「これだよ! これが観たかったんだよ!」と思っていました。やっぱり1クールは必要な情報量だと思うんです、これは。

 

ということで「邦画オリジナルなのに映画だけじゃあかんのよ」というちょっと普段とちがう感想になりました。映画観た人はコミックスも見よう。(笑)

 

 

ちょっと違う話なんですけれども。登場人物である「大人」がことごとく無力で、ちょっとうーん、と思っていました。最近観た映画に結構共通しているのは、一番身近であるはずの大人が主人公の問題解決に対して無力である、もしくは主人公の悩みの根源である、というものだったりして。

ちょっと前の物語のテンプレート的なものって、若い主人公の悩みに対して方向性を与えてくれるのは「大人」だと思うんですよ。一番近い親だったり、もしくは出会った年長者だったり、長老だったり。

「心が叫びたがってるんだ」では、理解ある大人は見守っているだけで、少年少女は自分たちの悩みを自分たちと戦いながら解決してしまう。その一方で、主人公の障害となった大人たちは何も解決されないか、もしくはその主人公たちの成長と、その大人よりさらに年上の大人たちとの中で救われるんです。なかなか妙な構図だと思うんです、これ。

ちゃんと統計をとったりしたわけではないので印象論なんですけど、時代で明らかに変化しているとするならば「大人観」が変動しているってことで、面白いなと思うんですよね。